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仏教はどのように伝来したのか?上座部仏教と大乗仏教に分けてご紹介

仏教のパワーを感じる旅へ!東南アジアの仏教に関連した世界遺産

アユタヤのワット・ヤイ・チャイモンコン photo:世界遺産イェーイ!

キラキラと太陽の光を受けて輝く寺院に、ジャングルにひっそりと佇む遺跡・・・東南アジアには、仏教に関連した世界遺産がたくさんあります。今回の記事では、東南アジアにある仏教の世界遺産を6件ご紹介!現在東南アジアで信仰されている方が多い上座部仏教と、日本でも馴染みのある大乗仏教に分けて、仏教発祥の地インドからどのように伝わってきたのかも見ていきたいと思います。


仏教とは

仏教とは紀元前5世紀頃にブッダがおこした宗教で、世界三大宗教の1つ。現在のネパールにあるルンビニーで釈迦族の王子として生まれたブッダは、35歳の時にインドのブッダガヤーにある菩提樹の下で悟りをひらきます。その悟りとは「自分の欲望をおさえることで、苦しみや悩みから逃れることができる」というもの。ブッダは、インドのサールナートで人々にはじめて教えを説いてから、インドのクシナガラにて80歳で亡くなるまで教えを広める旅を続けました。ブッダの死後は弟子たちがブッダに変わって、世界中に教えを広めていきます。

ネパールにある世界遺産「仏陀の生誕地ルンビニ」の菩提樹 photo:世界遺産イェーイ!

仏教は紀元前3世紀頃に「大乗仏教」と「上座部仏教」という2つの宗派に分かれていきました。大乗仏教とは出家をしない人でも、お経を読むなど信仰を深めていれば救われるというものです(出家:家を出て仏道の生活に入ること)。一方上座部仏教は出家を非常に重要視しているのが特徴。そのため上座部仏教徒が多いタイなどでは出家する人がとても多く、僧侶の地位が高くなっています。

大乗仏教は、インドからブータン、チベットを経てシルクロードを伝って中国、そして日本に伝わりました。
上座部仏教は、インドからスリランカ、タイ、ラオスなど東南アジアへ伝わっていきました。

このため、大乗仏教は「北伝仏教」、上座部仏教は「南伝仏教」とも呼ばれています。

 

上座部仏教 (南伝仏教)

それでは現在東南アジアで信仰している方が多い「上座部仏教」に関連した世界遺産をご紹介します。

 

タイ

まずはタイをご紹介。タイにおける上座部仏教は13世紀頃に伝わったと言われています。現在では人口の約95%が上座部仏教徒。タイ人男性の多くは若いうちに一度出家をします。ある一定の期間出家をしてお寺で修行をした後、還俗するというのが一般的。

写真提供:タイ国政府観光庁

こちらはスコータイ県のハッシアオ村で行われる得度式(とくどしき)の様子です。得度式というのは出家をお祝いする儀式のこと。ハッシアオ村の得度式は色鮮やかな衣装を身にまとい象に乗って行進する盛大なものです。このような仏教に関連した儀式やお祭りは年間を通じてタイ全土でみることができます。

それではタイを代表する仏教遺跡の世界遺産を2つご紹介します。

スコータイと周辺の歴史地区

ワット・トラパン・ングンの遊行仏 photo:世界遺産イェーイ!

タイ人初の独立国家「スコータイ朝」の栄華をしのばせる巨大な世界遺産。保存状態の良い仏教遺跡や仏像が広大な敷地に点在しています。

ラームカムヘーン王 photo:世界遺産イェーイ!

スコータイ朝は第3代の王様「ラームカムヘーン王」の時代に最盛期を迎えます。ラームカムヘーン王は上座部仏教を厚く信仰し、セイロン(現在のスリランカ)へ僧を留学させるなど、国王による仏教の保護事業をすすめ多くの寺院を建立しました。

ワット・マハタート photo:世界遺産イェーイ!

王室寺院として使われたとされる「ワット・マハータート」。中心の仏塔にはスリランカから送られてきた釈迦の遺骨(仏舎利)が納められていると言われています。

スコータイと周辺の歴史地区

登録年 1991年
登録基準 「人間がつくった傑作」、「文明の証拠」
アクセス 日本からバンコクまで直行便で約6時間。バンコクからスコータイまで飛行機で約1時間半

 

アユタヤと周辺の歴史地区

国際貿易都市として繁栄を誇ったアユタヤ朝の都には、かつて黄金に輝く寺院が数多く建てられていました。しかし1767年のビルマ軍侵攻によって徹底的な略奪と破壊にあってしまい、アユタヤ朝は滅び都は廃墟となってしまいました。

ワット・プラ・マハータート 菩提樹の木に覆われた仏頭 photo:世界遺産イェーイ!

スコータイ朝と同じく上座部仏教を厚く信仰した歴代の王たちは、多くの仏像、仏塔、寺院を築きました。それらは黄金や宝石をふんだんに使った豪華なものだったそう!その面影を求めてアユタヤを訪れてみてはいかが?

アユタヤと周辺の歴史地区

登録年 1991年
登録基準 「文明の証拠」
アクセス 日本からタイの首都バンコクまで直行便で約7時間。バンコクからアユタヤは車、電車で約1時間半

 

ラオス

次にご紹介するのはラオス。ラオスもタイと同じく、スリランカ経由で上座部仏教が伝わりました。

古都ルアン・パバン

屋根が何段にも重なっているのが特徴のワット・シェントーン photo:世界遺産イェーイ!

「古都ルアン・パバン」はラオス初の統一国家ラーンサーン王国の都。ラーンサーン王国の初代国王ファーグムは上座部仏教を国教に定め、王都ルアン・パバンは仏教信仰の中枢の地となり繁栄しました。ファーグム王はスリランカから黄金の仏像「パバン」を取り寄せます。上座部仏教の本拠地であるスリランカから仏像がもたらされたというのは、当時とても由緒あることでした。

古都ルアン・パバン

登録年 1995年
登録基準 「文化交流」、「建築技術」、「伝統的集落」
アクセス 日本からタイのバンコクまで飛行機で約6時間半。バンコクからルアン・パバンまで飛行機で約1時間半。ベトナムのハノイを経由することも可能

 

大乗仏教 (北伝仏教)

インドで起こった大乗仏教は1世紀頃シルクロードを通って中国に伝わりました。やがて仏教は中国で盛んに信仰されるようになり、仏像やお寺、巨大な石窟寺院が作られるようになりました。日本には6世紀頃伝わったとされます。

それでは「大乗仏教」に関連した世界遺産をご紹介します。

インドネシア

インドネシアにはインドからマラッカ海峡を通って大乗仏教が伝わりました。タイなど他の東南アジアの国々に伝わった上座部仏教ではなく大乗仏教が伝わったのです。13世紀頃まで信仰されていた大乗仏教ですが、イスラム教徒が増えていくのに伴い衰退していきます。現在インドネシアの仏教徒は1%程度です。

ボロブドゥール寺院

photo:世界遺産イェーイ!

大乗仏教の宇宙観を見事に表した巨大寺院。大乗仏教を信仰するシャイレンドラ朝によって8世紀~9世紀に約50年かけて作られました。

遺跡近くのマノハラ・ホテルにある模型 photo:世界遺産イェーイ!

ピラミッド状の寺院の下から基壇、方形壇、円形壇の3層に分かれるボロブドゥールは、大乗仏教の宇宙観である3種類の世界「三界」を表しているとされます。

基壇(欲界) ⇒ 煩悩に満ちた世界
方形壇(色界) ⇒ 欲望はなくなったがまだ肉体が存在する世界
円形壇(無色界) ⇒ 肉体を離れ精神だけの世界

上に行くほど仏教の悟りに近づけると言われています。

ボロブドゥールの仏教寺院群

登録年 1991年
登録基準 「人間がつくった傑作」「文化交流」、「出来事や宗教、芸術」
アクセス 日本から首都ジャカルタ、またはバリ島のデンパサールまで直行便で約7時間。ジャカルタ、またはデンパサールからジョグジャカルタまで飛行機で約1時間。ジョグジャカルタからバスで約1時間半。

 

カンボジア

カンボジアには、インドや中国から大乗仏教が伝わりました。9世紀からはじまったアンコール王朝時代には、大乗仏教とヒンドゥー教の両方が信仰されており、大乗仏教を信仰している王が建てた寺院は仏教寺院、ヒンドゥー教を信仰している王が建てた寺院はヒンドゥー寺院、といった感じで柔軟だったようです。仏教寺院として建てられたけれど、後の時代ではヒンドゥー教寺院として使われた、というパターンもあります。

その後12世紀頃タイなどから上座部仏教が伝わり、ヒンドゥー教と大乗仏教は衰退。現在では人口の9割以上が上座部仏教を信仰しています。

アンコール・トム

アンコール・ワットをはじめとした600を超える遺跡が構成資産である世界遺産「アンコール」から、アンコール・トムをご紹介!

バイヨン寺院 photo:世界遺産イェーイ!

アンコール王朝全盛期の時代、ジャヤヴァルマン7世が建てた都城がアンコール・トムです。ジャヤヴァルマン7世は大乗仏教に帰依し多くの仏教寺院を建立しました。その1つがアンコール・トムの中にあるバイヨン寺院。バイヨン寺院には54基の巨大な四面仏顔塔が並び、これがバイヨン様式とよばれる独自の美術様式を示しています。バイヨン寺院は後にヒンドゥー寺院として使われたこともあるため、ヒンドゥーのレリーフが残されていたりもします。

アンコールの遺跡群

登録年 1992年
登録基準 「人間がつくった傑作」、「文化交流」、「文明の証拠」、「建築技術」
アクセス 日本からプノンペンまで直行便で約6時間半。プノンペンからシェムリアップまで飛行機で約45分。その他タイのバンコク、ベトナムのハノイ、ホーチミン経由も可能

 
東南アジアの仏教に関連した世界遺産はいかがでしたでしょうか?多種多様な世界遺産はどれも見ごたえ十分。仏教が伝わった道すじを頭に浮かべながら世界遺産を観光してみると、また少し見方が変わってくるかもしれません。東南アジアにおける仏教のパワーを感じる旅に出かけてみませんか?

 
(text : 鈴木かの子)

【連載】世界遺産のプロが教える! 東南アジア イェーイな旅

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