カンボジア
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赤く優美な『女の砦』

アンコール遺跡群の宝石箱!バンテアイ・スレイ寺院

photo:世界遺産イェーイ!

カンボジアの世界遺産「アンコールの遺跡群」と言えば、アンコール・ワットやアンコール・トムを思い浮かべる方が多いと思いますが、その次に有名な寺院と言えば、バンテアイ・スレイではないでしょうか。「女の砦」という意味を持つバンテアイ・スレイは、赤い石が印象的で、繊細な美しさを持つ寺院です。寺院に「東洋のモナリザ」と呼ばれている女神像の浮き彫りがあるのですが、あまりの美しさから盗掘されそうになったことも!今回の記事では、アンコールの遺跡群の宝石箱!とも言われるバンテアイ・スレイをご紹介します。

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バンテアイ・スレイとは


photo:世界遺産イェーイ!

まず、カンボジアの世界遺産「アンコールの遺跡群」は、9~15世紀にかけてインドシナ半島のほとんどを支配していたクメール人の王国、アンコール王朝によってつくられたもので、世界遺産の登録範囲には600を超える石造りの遺跡が残されています。その中にアンコール・ワットやアンコール・トムが含まれており、バンテアイ・スレイもそのひとつです。


筆者はトゥクトゥクで訪れました photo:世界遺産イェーイ!

バンテアイ・スレイは、アンコール・ワットから車で約30分、シェムリアップ市内からだと1時間くらいのところにある郊外の遺跡。ちなみに、アンコール・ワットは、観光の拠点となる街シェムリアップの市内中心部から、車で約30分のところにあります。

シェムリアップの街から、所々で牛が寝ているような、のどかな道をひたすら進んでいきます。筆者は4回アンコールの遺跡群を訪れていますが、少し郊外にあるにも関わらず毎回バンテアイ・スレイを訪れています!

 

平和な時代がうみだした傑作

ゾウの聖水を浴びるヒンドゥー教の女神ラクシュミー photo:世界遺産イェーイ!

バンテアイ・スレイがつくられたのは10世紀後半。ラージェンドラヴァルマン1世という王様の時代に着工し、その息子ジャヤヴァルマン5世の時代に完成したと言われています。12世紀初頭につくられたアンコール・ワットよりも、約150年前に完成したことになります。

バンテアイ・スレイがつくられた頃は、600年以上続いたアンコール王朝の中でも平和な時代だったそう。そんななか職人たちが作業に集中することができたために、これだけの素晴らしい寺院をつくることができたのではないかと考えられています。


猿の兄弟が戦うシーン(ラーマヤナ) photo:世界遺産イェーイ!

他の遺跡と比べて保存状態が良いのもバンテアイ・スレイの特徴。赤色砂岩という硬い素材の石に掘られているものが多いため、比較的劣化が少なくなっています。また、この遺跡自体が、長い間地中に埋まっていたことも、保存状態が良い理由のひとつと言われています。

 

赤く優美なレリーフ


photo:世界遺産イェーイ!

それでは、寺院の様子をご紹介していきます。バンテアイ・スレイは、他のアンコールの遺跡ではあまり使われていない赤色砂岩でつくられており、寺院全体が赤っぽく、まさに「女の砦」という華やかな雰囲気がします。周囲が約400mの小さな寺院なので、コンパクトでまわりやすく、1時間くらいあれば十分楽しめます。


入り口の門 photo:世界遺産イェーイ!

入り口の門を抜けると参道があり、まっすぐ進むと中に入ることができます。


photo:世界遺産イェーイ!

小さいながらも、内部は見どころ満載!なんと行ってもおすすめしたいのがレリーフ(浮き彫り)の数々。その精緻さや華麗さは、アンコールの遺跡の中でも群を抜いて素晴らしいものです。バンテアイ・スレイは高さが最大でも10m弱と、他の遺跡と比べると低いため、間近で堪能することができるのもおすすめポイント。


建築様式にも注目!門が重なっています photo:世界遺産イェーイ!

寺院の内部に入っていくと門の破風やリンテル、柱などにびっしりとレリーフが刻まれています。


photo:世界遺産イェーイ!

「リンテル」は、入り口のすぐ上にある、水平のブロック状の部分で、まぐさ石とも呼ばれています。「破風(はふ)」は、リンテルの上部、屋根の下の三角形の部分。


photo:世界遺産イェーイ!

例えば、こちらは、ヒンドゥー教の神様ヴィシュヌの化身であるクリシュナが、悪王カンサを踏み殺すという、マハーバーラタの1シーンを描いたレリーフ。クリシュナはマハーバーラタの英雄です。上部にある三角形の破風に、踏みつけているシーンが描かれており、その下のリンテルの部分には、草や樹木が刻まれています。隙間なく掘られた草や樹木のレリーフも、緻密な美しさです。

バンテアイ・スレイに描かれているレリーフは、古代インドの叙事詩「マハーバーラタ」が中心となっています。マハーバーラタは、北インドの名門バーラタ族の王位継承権をめぐる大戦争を描いた物語です。


photo:世界遺産イェーイ!

筆者が印象に残った破風のレリーフがこちら。下の方を見てみると、とにかく、ものすごい数の手が、レリーフで細かく表現されているのにびっくり!20本の腕と10の頭をもつ魔王ラーヴァナが印象的なシーンです。

こちらは、カイラス山という山の上でヒンドゥー教の神様シヴァとその妻のパールヴァティが戯れているために、魔王ラーヴァナの馬車が通れなくなってしまい怒っているシーン。魔王ラーヴァナが、山を揺らすことで、怒りの感情を表現しています。まわりのライオンやゾウが怯えているのですが、後ずさりしている様子が少しコミカルな感じに見えてしまいます。ところどころに黒い部分があるのは、野焼きの跡だったり、黒カビの現象によるものだと言われています。赤と黒とのコントラストも雰囲気がありますよね。

 

あまりの美しさから盗難の危機に!東洋のモナリザ


photo:世界遺産イェーイ!

バンテアイ・スレイのハイライト、東洋のモナリザと絶賛される、デヴァター像(女神)のレリーフはこちら!寺院の中心にある、中央祠堂の内側に掘られています。バンテアイ・スレイのデヴァター像は、お顔もふっくらとしていて、体の線も柔らかく、優美な雰囲気を醸し出しています。手には花の枝を持ち、首をかしげたような様子も、他の遺跡ではあまり見ないスタイルです。


アンコール・ワットのデヴァター像 photo:世界遺産イェーイ!

アンコール・ワットにもデヴァター像のレリーフがあるのですが、少し印象が違いますよね。バンテアイ・スレイよりも約150年後につくられたアンコール・ワット。バンテアイ・スレイの優美なデヴァター像の影響をうけつつも、少し違った雰囲気に変化していったのかなと思うとロマンが膨らみます。

実はこちらのデヴァター像、1923年にフランス人作家のアンドレ・マルローによって盗み出そうとされたことがあるのです。マルローはデヴァター像をフランスまで持ち帰ろうとしたのですが、途中で見つかり、逮捕されてしまいます。逮捕後、マルローは減刑されフランスに帰国。そして、このエピソードをもとに「王道」という小説を書きました。その後、彼は長い間フランスの文化大臣をつとめるなど、政治的にも活躍したのです。盗みを働こうとしたにも関わらず、政治の要職についたというのは、ちょっと意外な感じがしますよね。これは当時カンボジアがフランスの植民地であったことに関係するのかもしれません。


バンテアイ・スレイの守門神のドヴァラパーラ photo:世界遺産イェーイ!

ちなみに、残念ながら現在は遺跡保護の観点から東洋のモナリザに近づくことはできません。望遠レンズや双眼鏡などを持参して少し遠くから見ることになります。

photo:世界遺産イェーイ!

以上バンテアイ・スレイはいかがでしたでしょうか?郊外の遺跡ですが、半日あれば訪れることができるので、足をのばしてほしい寺院です。アンコール・ワットともアンコール・トムとも違った魅力を放つ寺院をじっくりと味わってくださいね。

アンコールの遺跡群

登録 1992年
登録基準 「人間がつくった傑作」、「文化交流」、「文明の証拠」、「建築技術」
アクセス 日本からプノンペンまで直行便で約6時間半。プノンペンからシェムリアップまで飛行機で約1時間

(text : 鈴木かの子)

【連載】世界遺産のプロが教える! アジア イェーイな旅

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