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訪れる前に知っておきたい!

世界遺産アンコール・ワットに登場するヒンドゥー教の神様

ヴィシュヌ photo:世界遺産イェーイ!

アンコール・ワットは、何のために建てられのかご存知でしょうか?もともとアンコール・ワットはヒンドゥー教の神様ビシュヌをまつる寺院として建てられました。そのためアンコール・ワットでは、ヒンドゥー教にまつわるレリーフ(浮き彫り)や像をたくさん見ることができます。ヒンドゥー教の神様のお話を少し知っておくだけで、遺跡観光がもっと楽しくなる!ということで今回の記事では、アンコール・ワットに登場するヒンドゥー教の神様についてご紹介します。

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ヒンドゥー教の寺院として建てられたアンコール・ワット


photo:世界遺産イェーイ!

アンコール・ワットを建造したアンコール王朝の王様、スーリヤヴァルマン2世は、ヒンドゥー教の神ヴィシュヌを信仰していました。このためアンコール・ワットはヴィシュヌに捧げるヒンドゥー教の寺院として建てられました。当時王様は、巨大な寺院を建てることによって王の権力を示し、圧倒的な力で国を治めようとしていたのです。


photo:世界遺産イェーイ!

アンコール・ワットは、建物全体で、ヒンドゥー教の世界観をあらわしています。真ん中にそびえる中央祠堂はヒンドゥー教の神々が住む須弥山を、他の祠堂はヒマラヤ山脈を表現しています。アンコール・ワットは三重の回廊で囲まれているのですが、この回廊はヘビの姿をしたナーガという神様がとぐろを巻いて寺院を守っている様子を、またお堀は大海をあらわしています。

アンコール・ワットって「世界三大仏教遺跡」の1つでは?と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。アンコール・ワットは、建設当時はヒンドゥー教の寺院だったのですが、その後仏教寺院として使われた時代もあります。これは、その時代の王様が信仰していた宗教によるところが大きいです。

 

ヒンドゥー三大神とは?

ヒンドゥー教とは、現在インドを中心として南アジアで信仰されている宗教で、たくさんの神様が信仰されているのが特徴です。その中でもヒンドゥー三大神と言われているのがブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァです。


ブラフマー:創造 (インドネシア:プランバナン寺院) photo:世界遺産イェーイ!


ヴィシュヌ:維持 (カンボジア:アンコール・ワット) photo:世界遺産イェーイ!


シヴァ:破壊 (インド:エレファンタ島の石窟寺院群) photo:世界遺産イェーイ!

ヒンドゥー教には、ブラフマーが世界を創造し、ヴィシュヌが維持し、シヴァが破壊する、という教えがあります。三大神の中でも、アンコール・ワットで注目したいのが、維持の神様ヴィシュヌ。もともとヴィシュヌをまつるためにつくられたアンコール・ワットでは、ヴィシュヌの姿をいたるところで見ることができます。

 

ヴィシュヌとは?


シェムリアップ郊外の遺跡 クバルスピアンのヴィシュヌ photo:世界遺産イェーイ!

ヴィシュヌは「維持」を司る神様。最大の特徴は、世界が危機に瀕すると人々を救うために、化身となって地上にあらわれることです。ヴィシュヌの化身のことを「アヴァターラ」と言い、これがアヴァターの語源となっています。維持の神様ということで、他のヒンドゥー教の神様と比べると温厚で優しい印象を受けます。

ちなみにヴィシュヌの妻は、美と豊穣の女神ラクシュミー。ラクシュミーは「吉祥天」として仏教に取り入れられ、日本でもまつられている存在です。実は仏教には他にも多くのヒンドゥー教の神様が取り込まれており、シヴァは「大黒天」、ブラフマーは「梵天」としてまつられています。

 

ヴィシュヌの化身

ヴィシュヌの化身は10とも20とも言われていますが、代表的なものは「ラーマヤナ」の主人公ラーマ王子、「マハーバーラタ」のクリシュナなどがあげられます。また動物の化身もたくさんあり、魚や亀にも姿を変えます。アンコール・ワットの回廊に彫られたレリーフには、ヴィシュヌや、化身となったヴィシュヌの姿をたくさん見ることができます。

 

乳海撹拌:亀


第一回廊レリーフ 乳海撹拌 photo:世界遺産イェーイ!

第一回廊、東側の南にある、ヒンドゥー教の天地創世神話を描いた「乳海攪拌」。こちらは神々と阿修羅が協力して大蛇の尾を引っ張って綱引きをしながらかき回し、乳海の底から不老不死の薬(アムリタ)を湧き出させるというお話です。


第一回廊レリーフ 乳海撹拌 ヴィシュヌと亀 photo:世界遺産イェーイ!

亀に乗って真ん中で指揮をとっているのがヴィシュヌ、左側が阿修羅、右側が神々でそれぞれ大蛇を綱のように引っ張っています。この亀もヴィシュヌの化身なので、ヴィシュヌは自分の化身の上にいる!ということになります(諸説あります)。本人と化身が同時に登場しているというのは不思議な感じがしますよね。

 

ラーマヤナ:ラーマ王子

第一回廊西側の北には、インドの昔の物語「ラーマヤナ」のレリーフが残されているのですが、こちらにもヴィシュヌの化身が登場しています。

ラーマ王子とシータ妃は結婚し旅に出て森の中で暮らしていたのですが、魔王ラーヴァナがシータ姫をさらって監禁していまいます。監禁されたシータ姫を、ラーマ王子と猿の神様ハヌマーンが救出するという物語がラーマヤナです。


第一回廊レリーフ ラーマヤナ photo:世界遺産イェーイ!

実はラーマ王子もヴィシュヌの化身なのです。こちらはラーマヤナのハイライトといえる場面で、ラーマ王子が猿の武将ハヌマーンの肩に乗って弓を引いています。化身というだけあり、ラーマ王子の姿と乳海撹拌で登場していたヴィシュヌの姿が似ています。

 

スーリヤヴァルマン2世の軍隊:王様


第一回廊レリーフ スーリヤヴァルマン2世の軍隊 photo:世界遺産イェーイ!

この壁面には、アンコール・ワットを建造したスーリヤヴァルマン2世が勝利した時の軍隊パレードの様子が描かれています。玉座に座っているのがスーリヤヴァルマン2世で、右下に座っている占い師から戦いについて占ってもらっているところ、と言われています。スーリヤヴァルマン2世の姿もヴィシュヌと似ています。

スーリヤヴァルマン2世は、ヴィシュヌの化身というわけではないようです。ただ、アンコール王朝時代、王は神の生まれ変わりとして、強い権力をもって国を治めていました。そのため、スーリヤヴァルマン2世とヴィシュヌがよく似た姿で描かれているのです。

ちなみに、仏教の開祖ブッダもヴィシュヌ第9の化身とされています。仏教をヒンドゥー教に取り込もうとしていたことが伺えます。

 

動物の神様たち

アンコール・ワットには、動物の神様もたくさん登場します。代表的なものをご紹介!

 

ハヌマーン (猿神)


第一回廊レリーフ 乳海撹拌 photo:世界遺産イェーイ!

さきほども登場した猿の姿をした神様ハヌマーンは、アンコール・ワットの第一回廊のレリーフで、たくさん見ることができます。こちらの乳海撹拌では、綱引きの一番後ろで神々と一緒に綱を引っ張っています。ハヌマーンの上にぐるりとヘビのしっぽが見えます。


第一回廊レリーフ ラーマヤナ photo:世界遺産イェーイ!

ハヌマーンはラーマヤナでも大活躍!ラーマ軍を助けるために馬にかみついています。力持ちでいろいろな技をもつハヌマーンは神様を助けてくれる存在なのです。実は西遊記に登場する孫悟空のモデルになったとも言われています。

 

ナーガ (ヘビ神)


アンコール・ワット 欄干 photo:世界遺産イェーイ!

ヘビの姿をしたナーガは、神々の守護神という意味合いが強い神様。前述した通り、アンコール・ワットは回廊で囲まれているのですが、これはナーガが寺院(神々)を守っている様子をあらわしています。

脱皮をくりかえすヘビは、不老不死の象徴。カンボジアの建国神話にもヘビが登場します。現在でもカンボジアではヘビが特別な存在として信仰の対象となっています。

以上アンコール・ワットにまつわるヒンドゥー教の神様のお話をご紹介してきました。あまり日本に馴染みのないヒンドゥー教ですが、実は仏教にも取り入れられた部分があったりするので、意外と身近な存在だったりもします。個性豊かなヒンドゥー教の神様のお話を思い出しながら、アンコール・ワットのレリーフをじっくりと観光したいところです。

アンコールの遺跡群

登録 1992年
登録基準 「人間がつくった傑作」、「文化交流」、「文明の証拠」、「建築技術」
アクセス 日本からプノンペンまで直行便で約6時間半。プノンペンからシェムリアップまで飛行機で約1時間

(text : 鈴木かの子)

【連載】世界遺産のプロが教える! アジア イェーイな旅

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