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- 「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」が東南アジア諸国に及ぼす影響とは?
アジアインフラ投資銀行とはなにか?
最近何かと話題の中国主導の国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」。2015年末からの本格始動を開始する予定ですが、AIIBの始動で東南アジアの状況も大きく変わる可能性があります。今回は、東南アジア地域において、AIIBがどのような影響を及ぼすのかこれまでの事実を鑑み、考察してみたいと思います。
そもそもAIIBとはどのような機関なのか。AIIBは名前の通りアジア地域のインフラ開発を促進するための資金を融資するために創設される国際機関です。創設メンバーは全57カ国で、東南アジア諸国連合(ASEAN)全10カ国のほか、イギリス、フランス、ドイツなど欧州主要国、ブラジル、インド、ロシア、南アフリカのBRICS諸国、サウジアラビアなどの中東諸国が含まれています。
今年5月にシンガポールで開催されたAIIBの第5回会合では、創設メンバー57カ国の代表がAIIBの設立協定に合意しました。また6月末には北京で創設メンバーによる協定署名式を実施する予定で、今年末の始動に向けて着々と準備を進めています。
AIIB初代総裁はまだ決定されていませんが、元ADB(アジア開発銀行)副総裁の金立群・元中国財政次官が有力視されています。金氏はAIIBの設立準備事務局長を務める人物です。
これまで明らかになったところでは、AIIB発足時の資本金は当初計画の2倍に相当する1000億ドル(約12兆円)になるとみられています。このうち、中国の出資比率は20%台後半になる可能性が高いといいます。
©Singapore Tourism Board
東南アジア諸国にとってのAIIBの存在意義
なぜAIIBがこれほどニュースで取り上げられるのか。それは、米国主導の世界銀行・IMFによる国際金融システムに対抗する機関として創設される意味が非常に大きいからです。
国際政治学の世界では、米国が覇権国家となれたのは世銀・IMFを中心にした国際金融システムによるところが大きいと見られています。また同時に、米国の覇権は新興国の台頭を背景に明らかに弱まっており、世界は多極化に進んでいるという見方が多くなっています。AIIB創設は、まさにこの多極化を象徴する出来事として見ることができます。
東南アジア諸国にとっては、これまでインフラ開発するときの資金を融資してくれる国際金融機関は世界銀行かIMFしかありませんでした。しかし、世界銀行・IMFから資金を借りるときは、厳しい融資条件を受け入れる必要があり、マレーシアがIMFの融資プログラムを断ったケースに見て取れるように、この国際金融システムはインフラ開発をスムーズに進めることのできるものではなかったと言えるでしょう。そこに、米国と覇権を争う中国が、アジアのインフラ開発に特化した金融機関創設を発表したので、インフラ開発需要が高まる東南アジア諸国は真っ先にAIIB参加を決めたわけです。
一方で、世界銀行グループで、アジアのインフラ開発を担当してきたADBはその存在意義を示すために、AIIBに対抗する必要がでてきました。これは、今年5月東京で行われた安倍首相の講演内容から伺うことができます。
安倍首相はこの講演で、官民の資金を総動員し、アジア地域で良質なインフラ開発を促進する構想を正式に発表し、日本とADBによる支援額を現在より30%増やし、今後5年間で1100億ドル(約13.3兆円)にするというものです。明らかにAIIBに対抗する意識を読み取ることができると思います。東南アジア諸国にとっては、インフラ開発資金を借りられる先と額が増加することを意味し、今後東南アジアのインフラ開発は加速していくことになるでしょう。
ADBは国際金融機関なのに、なぜ日本がここまで肩入れするのか、と疑問を持つ方もいるかもしれません。しかし実際は、世銀・IMFを取り仕切る米国の同盟国である日本がADBを創設以来取り仕切っています。それは、出資比率と歴代総裁を見てみると明らかです。
2013年時点のADBの最大出資国は日本(出資比率15.7%)です。米国の出資比率は15.6%と2番目で、米国から日本がADBを任されている構図がお分かりかと思います。また、ADBの歴代総裁は全員が日本人で、前総裁は現日銀総裁の黒田東彦氏でした。
このような構図があるため、米国と日本は一緒になって、世銀・IMFとADBの存在意義を相対的に低下させてしまうAIIBの動きに懸念を示しているのです。
©ASEAN-Japan Centre
AIIBとADBによる競争で、東南アジアのインフラ開発は加速するか?
インフラ開発の中でも、交通インフラの整備が進むことが予想できます。中国は陸・海上の壮大な経済圏「シルクロード(一帯一路)」構想を実現しようとしています。一帯一路とは海上と陸上のインフラを整備して、アジア・中東・欧州をつなぐ巨大経済を創りだそうというもの。海上では中国から南シナ海・インド洋を経由し、欧州に向かうルートと、南シナ海から南太平洋に延びるルート、陸上では中国から①中央アジア・欧州・ロシア、②中央アジア・西アジア・地中海、③東南アジア・南アジア・インド洋の3ルートを整備することを計画しています。
これに伴い、日本もADBを通じてアジア地域における交通インフラ整備に力を入れることが予想されます。実際に、タイでの高速鉄道建設プロジェクトでは日本と中国が競り合い、結果日本の新幹線を建設することで合意しています。またマレーシア―シンガポール間でも高速鉄道建設が計画されており、日本政府はここにも新幹線を売り込もうと、安部首相自らトップセールスをしかけています。
東南アジア諸国にとって資金調達先を選択できるようになるということは、競争の原理がある程度機能し、資金を借りやすい環境が整うことが予想されます。そうなれば、インフラ開発が遅れていた地域もこれまでより速いスピードで発展できる可能性があります。
観光にも影響が及ぶでしょう。インフラが整えば、観光産業も盛り上がることが見込まれので、これまで行ったことのないような場所に旅行できるようになるかもしれません。シンガポール―マレーシア間の高速鉄道が完成すれば、これまで6時間かかっていたクアラルンプールとシンガポールの移動は1時間30分に短縮されると言われています。またタイやラオスなどにも高速鉄道が建設される可能性もあります。新幹線でいろんなところに旅行することが、東南アジアでもできるようになる日もそう遠くはないでしょう。
(text : 細谷 元)
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