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- バンコク中央駅(ファランポーン駅)に残る日本の足跡
「タイ鉄道の父」ラーマ5世の肖像が掲げられたファランポーン駅 著者撮影
第二次世界大戦中、日本はタイに様々な足跡を残した。旧日本軍がビルマ(現在のミャンマー)戦線への物資輸送を目的に突貫工事で建設した泰緬鉄道は、その例としてよく知られている。半世紀以上たった今、その足跡はほとんど見ることはできないが、バンコク中央駅であるファランポーン駅には、日本に関わりのあるものがひっそりと残っている。
その一つは、ファランポーン駅を出発するとすぐ左手に見えるSLである。このSLにはタイの国旗が付けられ、なんとなくタイらしいスタイルになっているが、1941年に日本で製造されたC56型という機関車である。このファランポーン駅のC56型は、タイ国鉄にとって最も大切な場所、タイ国鉄発祥記念碑の横に置かれており、タイのSLの代表選手のように展示されているのが嬉しい。
日本からタイへは90両が輸出され、泰緬鉄道などで使用された。終戦時に敵国に利用されないようにボイラーを爆発させて「自決」させられた機関車もあったようだが、使用できる46両はそのままタイ国鉄に引き継がれ1980年頃まで使用された。1979年には、2両のC56型がタイから日本へ「帰還」し、1両は東京都の靖国神社の遊就館に保存、もう1両は静岡県の大井川鉄道で今も活躍している。
もうひとつの足跡を探すのは少し大変である。それは駅の柱に使われている古レールである。レールは一定期間使用すると擦り減るので交換するが、強度は十分にあるので駅のホーム屋根の柱などに転用されることが多い。ファランポーン駅の柱にも多くの古レールが使用されているが、その中に「RSR YAWATA 1936」と刻印されたものがある。そう、日本の八幡製鉄所製のレールである。私が確認したところ少なくとも2本のレールにこのマークが刻印されているのを発見した。「RSR」はタイ国鉄の旧名称、「1936」は製造年を表している。つまり、1936年に八幡製鉄所で製造され、タイ国鉄に納入されたレールということになる。泰緬鉄道の建設前のことなので、おそらく日本がタイの鉄道輸送網を増強させるために輸出したレールであろう。
このレールが貴重なのは「YAWATA」の文字があることである。実は、日本ではほとんど八幡製鉄所製のレールが使用されているため、わざわざ製造所を見分ける必要がなく「YAWATA」の文字は刻印されていない。「YAWATA」の文字があるのは外国向け輸出レールのみで、現在、この刻印が確認できるレールがあるのはタイと台湾だけである。日本の「レールマニア」にとっては大変の貴重なレールなのである。
この八幡製作所製のレールがある周辺の柱には、様々な国の製鉄所の名前が入ったレールが多数存在しており、日本では見かけない刻印のレールが多い。ここを見るだけで、強国のパワーバランスを上手く使って独立を保ち続けたタイ国の歴史が分かる。もっとも、駅でブツブツ言いながら柱を見て回っているのは、かなり不審な日本人であるが。
(text & photo : 井上毅)
バンコクから見る、東南アジア鉄道の楽しみ方
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名称 | ファランポーン駅 |
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