香港
観光
屋台、麻雀牌、蝦醤…

香港のディープな魅力を発掘! 最先端の街に残る古き良き伝統文化の旅へ

“香港の小さなベニス”と呼ばれるタイオー(大澳)の水上家屋の風景 ©︎Daisy Costello
高層ビルがそびえ立つビクトリア・ハーバーのスカイラインと、2階建てトラムが走る風情ある景観。最先端のアートがあふれる一方でアジアらしいノスタルジックさを残す街……。香港は古今の魅力を併せ持つ場所だ。革新と伝統どちらも見ることができる香港について、今回は2人のインフルエンサーのインタビューを交えながらさらなる魅力を紹介していく。

屋台・せいろ・麻雀牌の歴史ある香港文化


Lindsay Varty氏 ©︎Annie Yuen for Sassy Hong Kong
ライター、ジャーナリスト、さらにはラグビー選手としても活躍するLindsay Varty氏。両親からマカオとイギリスの血を引き香港で育った彼女は、香港の文化や歴史に魅了されてやまないという。そんな彼女は著書『Sunset Survivors』で、香港における商売や職人について綴っている。

伝統料理が味わえる屋台「大排檔(ダイパイドン)」


「勝香園(Sing Heung Yuen)」のIrene Lee氏 ©︎Gary Jones for Sunset Survivors
香港で育ったLindsay氏にとって、香港の“本当の味”とは「屋台」である大排檔(ダイパイドン)を訪れることを指す。大排檔は一般的に路地や屋外スペースにテーブルや椅子が設置され、頭上にはターポリンという防水シートが張られたシンプルな飲食店だ。

大排檔では観光客にも人気の香港式フレンチトーストやトマトマカロニスープをはじめ、香港の伝統料理を味わうことができる。世界中を旅してきたLindsay氏からすると、こうした香港料理や無駄のない大排檔のスタイルは香港以外の屋台文化と一線を画すものだという。「皆さんもぜひ大排檔で食事をしてみてください。セントラル(中環)にある『勝香園(Sing Heung Yuen)』は、私の友人でもあるIrene Leeさんがオーナーで、料理もサービスも素晴らしくオススメのお店です!」香港旅行の際は大排檔グルメ巡りをぜひ体験してみよう。

点心に欠かせない「竹製のせいろ(蒸籠)」


「徳昌森記蒸籠(Tuck Chong Sum Kee Bamboo Steamer Company)」のRaymond Lam氏 ©︎Gary Jones for Sunset Survivors
大の点心ファンだというLindsay氏のように、香港の点心料理に魅了される人は多いだろう。点心は竹製のせいろ(蒸籠)で作られることが多いが、近年は機械化が進みそのほとんどが中国の工場で作られている。

そんななかサイインプン(西営盤)にある「徳昌森記蒸籠(Tuck Chong Sum Kee Bamboo Steamer Company)」は、手作りのせいろを製造し続けている場所。店の小さな窓からは職人の業を垣間見ることができ、香港ならではのアート作品を見ているかのような気分を味わえるだろう。

Lindsay氏はこう語る。「5代目オーナーのRaymond Lamさんは、40年以上この家業に従事しており、香港中および海外のホテル、レストラン、ショップ、家庭のために毎日せいろを作っています。手作りの竹製せいろが芸術品として見直されるようになったことで、竹製せいろは蝋燭立てやランプ、収納箱、あるいは壁面装飾にも使われるようになったそうです。商品の美しさと香港文化への認識を高めるために、竹製せいろが様々な用途で使用されるのは素晴らしいことですが、やはり主な用途はやはり食べ物を蒸すことだと思います。香港の人たちは様々なアイディアを巡らし、この産業を維持しようとしています」

“キングおじさん”が手作りする一点もの「手描きの麻雀牌」


「標記蔴雀(Biu Kee Mahjong)」のCheung Shun-king氏 ©︎Gary Jones for Sunset Survivors
実は麻雀が大変盛んな香港では、週末ずっとこれに興じる人もいる。一方で麻雀に不可欠となる麻雀牌も、竹製せいろと同じく機械化が進む工芸品だ。最近では伝統的な手描きの麻雀牌の代わりに、安いプラスチック製の麻雀牌も普及している。繊細なデザインの麻雀牌は絵付けに時間も手間も要することから、手作り麻雀セットになるとその価格はHK$4,000、日本円にして約5万5千円になるのだ。

こうしたなか、希少な麻雀牌絵付師としてジョーダン(佐敦)の「標記蔴雀(Biu Kee Mahjong)」で働いているのが、「キングおじさん」の愛称で知られるCheung Shun-king氏だ。Cheung氏は一族に代々伝わる伝統製法で麻雀牌に手描きと彫刻を施し、今なお麻雀セットを手作りしている。しかし面白いことに、キングおじさん自身は麻雀の打ち方をまったく知らないそう! 「一日中、牌を見つめているから、家に帰ってまでも見たくないんだ」

最近では麻雀女子も増えており、一点ものである手描きの麻雀牌に興味がある方もいるはず。そんな方にはジョーダン市内で開かれるワークショップへの参加がおすすめだ。キングおじさんやKaren Aruba氏と連絡を取って、香港の文化や歴史とより深く繋がってみてほしい。

 

スイーツから文化遺産の調味料まで! 香港の絶品食文化


Christine Cappio氏 ©︎Phoebe Lau
フランスから香港へとやってきたChristine Cappio氏は、作家、イラストレーター、そして陶芸家としても活動する人物だ。著書である『Gweimui’s Hong Kong Story』のなかで、彼女は若いフランス人女性が香港の生鮮市場や美味しい料理、色鮮やかな香港らしい風景を発見する旅の様子を描いている。「決してグルメというわけではない」というChristine氏だが、そんな彼女でも惚れ込まずにはいられなかった香港食文化について紹介してくれた。

香港の名物パイ「老婆餅(ローポーベン)」


写真提供:香港政府観光局
老婆餅(ローポーベン)は伝統的な広東のパイ菓子だ。中国語では「妻」のことを「老婆」と書くとおり、あるひとりの妻にまつわる逸話が名前の由来になっている。家計を助けるべく身売りした妻を取り戻すため、夫は“砂糖漬けのスイカとアーモンドを入れた小ぶりのパイ”を売った。そのパイの稼ぎで、最後には無事に妻を取り戻すことができた……という。

香港のベーカリーで購入でき、おやつとしても親しまれる老婆餅は、Christine氏も作りたくなる香港の名物料理のひとつだ。

香港の伝統的なお団子「茶果」


©︎Christine Cappio
もうひとつ、Christine氏が気に入っているというのが「茶果」だ。もち米でできた小ぶりの団子に、香ばしい具材や甘い味付けの具材を詰め、ピーナッツや小豆の飾りを載せて、バナナの葉の上で蒸して作る。古くから中国南部で暮らしてきた客家の名物料理で、香港にもこの食文化が受け継がれた。

茶果が主に食べられるのは「清明節」や「重陽節」。またローポーベン(老婆餅)ほど一般的ではないものの、タイオー(大澳)の甘味処やタイポーマーケット(大埔墟 街市)のフードコート等でも販売されている。

香港料理に欠かせない調味料「蝦醤(シャージャン)」


蝦醤作りの様子 ©︎Christine Cappio
港町であることからも海鮮料理が豊富なことで知られる香港。なかでも蝦醤(シャージャン)は、チャーハンや野菜炒めなど幅広い料理で使われる香港の人々にとって欠かせないアイテムだ。かつては広く作られていた蝦醤だが、海洋資源保護の観点から2013年に原材料のエビのトロール漁が禁止され生産自体が減少傾向に。現在香港のオキアミを使った100%香港製の蝦醤製造企業は少なくなっている。こうした背景から蝦醤産業は無形資産に認定され、2014年には香港の文化遺産リストに追加されている。

そんななか「勝利香蝦廠(Sing Lee Shrimp Sauce & Paste Manufacturer)」は、香港製蝦醤を生産している数少ない企業のひとつ。創業80年以上を誇る家族経営の会社で、かつて漁村として栄え、水上家屋の景観から“香港の小さなベニス”とも呼ばれるタイオー(大澳)にある。

毎年6〜10月にタイオー(大澳)を訪れると、蝦醤が入った青いバケツや、ピンク色のペーストが入った大きな籐(とう/ラタン)の籠、日干しの様子といった蝦醤作りを目にできる。タイオー(大澳)を訪れた際は製造工程も見学しつつ、蝦醤商品を手に取ってこの地の伝統に触れてほしい。

世界中から愛される「手塗り磁器」


©︎Christine Cappio
陶芸デザイナーでもあるChristine氏にとって、美しい磁器がそこここに並ぶ香港は心躍る場所だ。そんな彼女は、「『廣彩(Guangcai)』と呼ばれる香港の色絵磁器が大好きです。1960年以前香港には4つの大きな手描き磁器メーカーがありましたが、今では『粵東磁廠(Yuet Tung China Works)』しか残っていません」と語っている。

「粵東磁廠」は1928年に広州からこの地へやってきたTso一族によって設立された。現在は3代目のJoseph Tso氏が工房を運営している。1960年代からは、手描きでなくゴム印や転写を利用して磁器への絵付けを行う手製装飾を導入。バチカン市国や各国王室、諸外国の政府関係者などを顧客に持ち、世界中の有名ホテルや企業、個人へのオーダーメイドに至るまでさまざまなオーダーに応じて作品を作り続けている。


「粵東磁廠(Yuet Tung China Works)」のJoseph Tso氏 ©︎Christine Cappio
香港の無形遺産のひとつでもある伝統工芸品の廣彩について、Christine氏はこうも語っている。「工房内には廣彩と現代風の磁器が所狭しと並んでいて、大量に積まれた磁器のなかをじっくり探すと、Joseph Tsoさんの祖父が手描きした廣彩など、お気に入りの作品が必ず見つかるはずです。またお皿や陶器にオリジナルのデザインを施し、世界にひとつだけのオリジナルギフトを作ることもできます。自分がデザインしたものがお皿に入っていたら嬉しいですね!」

実際香港では今、趣味として磁器の絵付けを習う人が増えており、ワークショップも頻繁に開催されている。Joseph Tso氏の奥さんも、香港のさまざまな場所でグループやプライベートレッスンを開き磁器の絵付けワークショップを行っている。

このように香港には時代を超えて受け継がれ続ける魅力的な文化が多数残っている。次に香港を訪れる際は、香港独自の伝統文化にも注目して街を歩いてみてはいかがだろう。



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