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世界遺産と無形文化遺産を五感で楽しむ旅も!

形をもたない生きた文化遺産!東南アジアの無形文化遺産

カンボジアの宮廷舞踊 photo:世界遺産イェーイ!

「和食って世界遺産なんですよね?」筆者もよく聞かれる質問なのですが、和食は世界遺産ではなく「無形文化遺産」というものです。今回の記事のテーマは「無形文化遺産」。世界遺産との違いや、東南アジアの代表的な無形文化遺産に注目。次の旅行で体験したい「世界遺産と無形文化遺産を五感で楽しむ旅」のプランもご紹介します。

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無形文化遺産とは

伝統芸能や、工芸技術、社会慣習、技術や儀式など、世界には、形をもたないけれども守っていきたい「生きた文化遺産」が、たくさんあります。2003年ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は、これらの「生きた文化遺産」を保護するために「無形文化遺産条約」を定めました。


カンボジアの宮廷舞踊 photo:世界遺産イェーイ!

世界遺産との違いは不動産ではないこと。もともと世界遺産条約で、有形の文化遺産、自然遺産は保護されてきました。これに加えて無形文化遺産条約ができたことにより、無形文化遺産も国際的に保護していく仕組みが整ったのです。代表的な無形文化遺産を登録した「代表リスト」には、現在492件が記載されています。

ちなみに日本では、歌舞伎、和食、和紙、アイヌ古式舞踊など23件が代表リストに記載されています。無形文化遺産は、技術や知識、慣習、しきたりを守り伝えることを目的としています。例えば和食は無形文化遺産ですが、これはレシピではなく、日本人が自然を尊重する精神を持ちながら育んできた和食の文化が登録されたことになります。


和食 photo:世界遺産イェーイ!

 

東南アジアの無形文化遺産

それでは東南アジアの代表的な無形文化遺産をご紹介!無形文化遺産とセットで訪れたい世界遺産にも注目していきます。

 

カンボジアの宮廷舞踊

優雅な舞で知られるカンボジアの宮廷舞踊は、9世紀頃に誕生したもので、その姿はアンコール遺跡の至るところにレリーフ(浮き彫り)として描かれています。もともとは、インドの文化やインドネシアのジャワ島のヒンドゥー文化にルーツをもつ舞踊です。クメール王朝時代、宮廷舞踊は王家の儀式の時などに踊られており、神へささげられる神聖なものでした。その後、クメール王朝の滅亡やカンボジア内戦など、受難の時を乗り越えて、現在も宮廷舞踊の伝統が引き継がれています。


photo:世界遺産イェーイ!

宮廷舞踊にはいろいろな種類がありますが、こちらはヒンドゥー教の神話「ラーマ・ヤナ」の一場面。シータ姫を助けるために猿の武将ハヌマーンが金の人魚に助けを求めるシーンです。

「ラーマ・ヤナ」:ラーマ王子とシータ姫は結婚し旅に出て森の中で暮らしていたのですが、魔王ラーヴァナがシータ姫をさらって監禁していまいます。監禁されたシータ姫を、ラーマ王子と猿の武将ハヌマーンが救出するという物語。

 

クメールの影絵劇「スベク・トム」:カンボジア


©ASEAN-Japan Centre

もうひとつカンボジアの無形文化遺産をご紹介します。クメールの影絵劇「スベク・トム」も、宮廷舞踊と同様、クメール時代には、神々に捧げるものであったそうです。こちらもクメール王朝滅亡やカンボジア内戦により、一時は根絶の危機にあいましたが、カンボジアのアーティストたちによって伝統が復活しました。

クメールの影絵劇「スベク・トム」は迫力満点で、まず目を引くのが人形の大きさ。牛のなめし革に繊細な彫刻が施された1m~1.5mほどの大きな人形に2本の竹の棒をつけて、ダンサーが棒をもって演じます。

レストランなど屋内で演じることもあるのですが、一度は見て頂きたいのが、野外で火を炊いて行われる影絵劇。ココナツの殻を燃やした炎の前に、巨大な白布のスクリーンを置き、ダイナミックな影絵が映し出されます。笛や太鼓、木琴などの伝統的な音楽にあわせて、幻想的な世界が広がります。影絵劇のストーリーはヒンドゥー教の神話「ラーマ・ヤナ」をもとにしたものとなっています。

 

一緒に訪れたい世界遺産「アンコールの遺跡群」:カンボジア


アンコール・ワットのデヴァター像 photo:世界遺産イェーイ!

この2つの無形文化遺産とあわせて訪れたい世界遺産と言えば、やはり「アンコールの遺跡群」。代表的な寺院「アンコール・ワット」の回廊に掘られているデヴァター像(女神像)と、宮廷舞踊のダンサーとを見比べてみるのも面白いです。


クーレンのダンス・ショー photo:世界遺産イェーイ!

また宮廷舞踊でも影絵劇でもモチーフとして使われているヒンドゥー教の神話「ラーマ・ヤナ」は、「アンコール・ワット」の回廊にも描かれています。


猿軍の武将が噛み付くシーン photo:世界遺産イェーイ!

日中はアンコール・ワットを観光して、デヴァター像やラーマ・ヤナを遺跡で堪能し、夜は同じモチーフをダンスや影絵で楽しむ。まさに五感でカンボジアの文化を感じる1日になりそうです。

 

シンガポールのホーカー文化:多文化都市の文脈におけるコミュニティの食事と料理の慣習


photo:世界遺産イェーイ!

ホーカーとは屋台のこと。シンガポールの屋台は、地域ごとに1つの屋根の下に集まっているのが特徴です。多くの人が集まるホーカーは、食事はもちろん、コミュニケーションの場としての役割も果たしてきました。ホーカーで味わえるのは、中国、マレー、インド、イギリスなど多民族国家ならではの、さまざまな料理。シンガポール在住者は、かなり高い頻度でホーカーを利用します。


photo:世界遺産イェーイ!

和食と同様、こちらも特定のレシピが登録されたのではなく、多民族の人々がホーカーに集まって食事を取りながら交流をしていた文化や、それぞれのホーカーでレシピや料理法が受け継がれてきたこと、というのが無形文化遺産になったのです。

 

一緒に訪れたい世界遺産「シンガポール植物園」


photo:世界遺産イェーイ!

1859年に開園したシンガポール植物園は、広大な敷地にランなどの鮮やかな花々が咲き、市民の憩いの場として親しまれています。シンガポールの中心地、オーチャードエリアからはタクシーで数分とまさに都会のオアシスです。


photo:世界遺産イェーイ!

シンガポール植物園では、ゴムの樹液を効率よく採取する方法が研究されていました。この研究により、シンガポールのゴム産業が発展を遂げ、19世紀後半になると中国やインドから多くの移民がゴム農園の労働者としてやってきたのです。シンガポール植物園は、シンガポールに多民族が暮らすことになった、きっかけでもあるスポット。植物園とホーカー文化をあわせて楽しみ、その歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

 

ヌアット・タイ:伝統的タイ式マッサージ


写真提供:タイ国政府観光庁

伝統的タイ式マッサージは、手だけではなく、ひじやひざ、足を使って全身をくまなく指圧するのが特徴。指圧で体の中を流れるエネルギーライン「セン」を刺激することによって、治癒力を高め、体を活性化していきます。温めたハーバルボールを用いることもあります。

もともと農作業で筋肉痛になった農民に対してマッサージをして治していたことが、伝統的タイ式マッサージのルーツであると言われています。どの村にもマッサージ施術者がいて、村の中でケアをしていたのです。その技術は現在でも受け継がれています。

 

一緒に訪れたい世界遺産「アユタヤと周辺の歴史地区」:タイ


ワット・プラ・マハータート photo:世界遺産イェーイ!

アユタヤは、貿易都市として約400年間栄えた古都。歴代の王たちはたくさんの仏像や仏塔、寺院を築きましたが、1767年ビルマ軍の侵攻により仏像や寺院は破壊され、現在は切り落とされた仏像、土台のみの王宮などが残されています。

伝統的タイ式マッサージは、タイの寺院でも発展していったと言われています。バンコクにある涅槃像で有名な寺院「ワット・ポー」の壁面には、体の中を流れるエネルギーラインとされる「セン」を人体図で示したものが残されています。

寺院めぐりが楽しいアユタヤの観光ですが、暑いなか、たくさん歩くので、時には筋肉痛になることも?!観光のあとは、伝統的タイ式マッサージで体をほぐしましょう。

 

バリ島の伝統舞踊の3つの様式:インドネシア


バロンダンス ©ASEAN-Japan Centre

バリ島を訪れたら一度は見てみたいのが、エキゾチックな伝統舞踊。バリ島にはたくさんの伝統舞踊があるのですが、それらが3つのグループに分けられて無形文化遺産として登録されています。3つのグループとは、ワリ:神に捧げる舞踊、バリバリアン:娯楽として観賞用に演じられる舞踊、ブバリ:ワリとバリバリアンの両方の要素をもつ舞踊となります。これらの伝統舞踊は、長い年月をかけて守り伝えられてきました。


レゴンダンス ©ASEAN-Japan Centre

 

一緒に訪れたい世界遺産「バリの文化的景観」:インドネシア


タマン・アユン寺院 photo:世界遺産イェーイ!

バリ島にある世界遺産は、正式名称を「バリの文化的景観:バリ・ヒンドゥー哲学トリ・ヒタ・カラナを表す水利システム『スバック』」と言います。現在もバリ島で多くの方が信仰しているバリ・ヒンドゥー教の哲学のひとつに「トリ・ヒタ・カラナ」という概念があります。「トリ・ヒタ・カラナ」とは、神と人、自然の調和を意味します。神から自然の恵みである水を受け取り、稲を耕してお米を作り、神にお供えし生活していくという生命の営みを表現しているのです。

「トリ・ヒタ・カラナ」に基づく棚田の景観や灌漑施設、9世紀から1,000年以上継承されてきた水利システム「スバック」を司る寺院など5つのエリアが、1つの世界遺産として登録されています。


ティルタ・ウンプル photo:世界遺産イェーイ!

バリの伝統舞踊は、バリ・ヒンドゥー教にとっても欠かせないものです。こちらも日中はスバックを司る寺院や、棚田の絶景を楽しんで、バリ・ヒンドゥー教の理解を深め、日没後は神秘的なバリ伝統舞踊を鑑賞してみてはいかがでしょうか?

 
以上、無形文化遺産をご紹介してきました。形ある世界遺産と、形を持たない無形文化遺産をセットで楽しむことにより、その土地の文化をより深く知ることができます。ぜひ次の旅先を検討する際は、世界遺産だけではなく、無形文化遺産についてもチェックしてみて下さいね。伝統舞踊や影絵は、動画でも楽しむこともできるので、いまのうちに予習しておくのもオススメです。

(text : 鈴木かの子)

【連載】世界遺産のプロが教える! アジア イェーイな旅

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