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東南アジアに点在するクメール遺跡をめぐる旅へ!

クメール王朝の歴史を世界遺産で追う

アンコール・ワットのレリーフは必見 photo:世界遺産イェーイ!

東南アジアの至宝「アンコール・ワット」を造り上げたクメール王朝は、9世紀から15世紀まで東南アジアに存在していた王朝です。12世紀の最盛期には現在のカンボジアを中心にタイ、ラオス、ベトナムの一部など、インドネシア半島のかなり広い範囲を治めていました。

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クメール王朝時代の世界遺産といえば、カンボジアにあるアンコール・ワットやアンコール・トムが有名ですが、実は他にもクメール王朝に関連した世界遺産があります。今回の記事では、東南アジアの文明を語る上では欠かせないクメール王朝の世界遺産3件と、世界遺産ではないのですが重要な遺跡に注目してクメール王朝の歴史を簡単に振り返ります。

 

クメール王朝以前

カンボジアのシェムリアップ近郊にあるトンレサップ湖周辺には、古くから現在のカンボジア人に近い人々が居住していたと考えられています。1世紀頃、現在のカンボジアとベトナム南部にかけてメコン川流域に「扶南」という国が建国されました。扶南はインドと中国を結ぶ海のシルクロードの要所にあり、交易によって発展していきます。

そんな中、6世紀頃にクメール族の国家チェンラ(真臘)王国が誕生します。最初は扶南の支配下にあったチェンラ王国でしたが、7世紀に扶南を併合しクメール族初の独立国家となりました。国王イシャーナヴァルマン1世は、チェンラ王国の首都をイーシャナプラ(現在のサンボー・プレイ・クック)と定めます。

世界遺産:サンボー・プレイ・クックの寺院地区と古代イーシャナプラの考古遺跡(カンボジア)

ジャングルの中にたたずむ遺跡 photo:世界遺産イェーイ!

サンボー・プレイ・クックは7世紀頃にイシャーナヴァルマン1世が建設したと考えられている遺跡。鬱蒼としたジャングルの中に、れんがで造られた遺跡が広範囲にわたって点在しています。

八角形の祠堂 photo:世界遺産イェーイ!

八角形の祠堂や繊細な彫刻などはサンボー様式と呼ばれており、アンコール・ワットに代表されるクメール様式の礎となりました。

サンボー・プレイ・クックの寺院地区と古代イーシャナプラの考古遺跡

登録 2017年
登録基準 「文化交流」、「文明の証拠」、「出来事や宗教、芸術」
アクセス 日本からプノンペンまで直行便で約6時間半。プノンペンからサンボー・プレイ・クックまで車で約4時間

 

クメール王朝の始まり

7世紀半ばチェンラ王国のジャヤヴァルマン1世がカンボジア全土を支配するものの、彼の死後は分裂してインドネシアのジャワ島の支配下におかれます。802年、ジャワ島からカンボジア地方に戻ってきたジャヤヴァルマン2世がカンボジア全域を統一。これが世に名高いクメール王朝(別名:アンコール王朝)の創設です。

世界遺産:アンコール(カンボジア)

世界遺産「アンコール」は、クメール王朝の栄華を今に伝える遺跡群。アンコール・ワットをはじめとした600を超える遺跡が世界遺産として登録されています。

ロリュオス遺跡の1つ プリア・コー photo:世界遺産イェーイ!

インドラヴァルマン1世が、現在のロリュオス遺跡周辺に王都「ハリハラーラヤ」を建設し勢力を拡大。ロリュオス遺跡を代表するプリア・コーは、879年に建立されたハリハラーラヤで最初に建てられたヒンドゥー教寺院です。ロリュオス遺跡はアンコール・ワットなどがあるシェムリアップ市内から10キロほどのところにあります。クメール王朝初期の遺跡を見るために、ぜひ足を延ばしたいところです。

プノン・バケン photo:世界遺産イェーイ!

889年に即位したヤショーヴァルマン1世は、シェムリアップ市内近くの小高い丘プノン・バケンを中心とした都城「ヤショダラプラ」へ遷都。アンコールの地に都が置かれることになります。その後のクメール王朝最盛期にはアンコール・ワットやアンコール・トムが建てられました。

 

シェムリアップ以外にも!広範囲に点在するクメール遺跡

さて、アンコール・ワットやロリュオス、プノン・バケンなど、シェムリアップの近くにある遺跡は世界遺産「アンコール」の構成資産であるものが多いのですが、実はシェムリアップから離れたところにもクメール王朝の遺跡が残されています。クメール王朝の最盛期には、インドシナ半島の大部分を治めていたため、カンボジアのみならずラオスやタイでもクメール王朝の遺跡を見ることができるのです。

世界遺産:プレア・ヴィヘア寺院(カンボジア)

プレア・ヴィヘア photo:ひさほ ゆう

「プレア・ヴィヘア」は、アンコール・ワットがあるシェムリアップから車で約4時間北上したところにある遺跡。タイとの国境沿いに位置します。

断崖絶壁からの眺望は見事 photo:ひさほ ゆう

アンコールの地に都を移した、ヤショーヴァルマン1世によって9世紀に創建され、11世紀~12世紀頃スーリヤヴァルマン1世と2世が改築し王家の寺院としました。スーリヤヴァルマン2世はアンコール・ワットを建設したことでも知られる王です。

プレア・ヴィヘア寺院

登録 2008年
登録基準 「人間がつくった傑作」
アクセス 日本からプノンペンまで直行便で約6時間半。プノンペンからシェムリアップまで飛行機で約1時間。シェムリアップから車で約4時間

 

世界遺産:チャムパーサックの文化的景観にあるワット・プーと関連古代遺跡群(ラオス)

ワット・プーの参道からはカオ山を望める photo:ひさほ ゆう

ラオス南部チャムパーサック平原にある「ワット・プー」は、ヒンドゥー教の寺院。ワット・プーを中心とした遺跡群と、カオ山やメコン川を含む広い範囲が文化的景観の広がる地域として、世界遺産に登録されています。かつてチャムパーサック一帯はクメール王朝の支配下にあったと考えられています。クメール人はカオ山を神の宿る地として信仰し、ワット・プーやその他の石造建築物を築いたとされます。

ワット・プー 南北宮殿 photo:ひさほ ゆう

そろばん玉のような連子窓は、クメール建築の特徴的なスタイル。アンコール・ワットなどでもおなじみです。

チャムパーサックの文化的景観にあるワット・プーと関連古代遺跡群

登録 2001年
登録基準 「文明の証拠」、「建築技術」、「出来事や宗教、芸術」
アクセス 日本からタイのバンコクまで飛行機で約6時間半。バンコクからルアン・パバンまで飛行機で約1時間半。ルアン・パバンからパークセーまで飛行機で約1時間40分。パークセーからワット・プーまで、車で約2時間

 

ピマーイ遺跡(タイ)

タイの遺跡と言えばアユタヤやスコータイが有名ですが、クメール王朝の遺跡も数多く残されています。世界遺産には登録されていませんが、見応えがあり保存状態が良い遺跡なのでぜひ訪れてみたいところ。

写真提供:タイ国政府観光庁

タイ東北部にあるピマーイは国内最大級のクメール遺跡。11世紀頃にクメール王朝によって建てられ、アンコール・ワットのモデルになったとも言われています。この頃タイ東北部はクメール王朝の支配を受けており、ピマーイは宗教的に重要な役割を担っていたと考えられています。

 

パノム・ルン遺跡(タイ)

もう1つタイにあるクメール遺跡をご紹介します。カンボジアとの国境近くに位置するパノム・ルンは、クメール王国の神殿跡。パノム・ルンとはクメール語で「大きな丘」を意味し、天気の良い日には丘の上に建てられた神殿からカンボジアの国境まで見渡すことができます。

写真提供:タイ国政府観光庁

遺跡の建立は10世紀から13世紀頃と言われており、クメール様式の特徴が随所に残されています。外壁に緻密に施された彫刻は必見です。日の出は神殿正面の参道から昇るように、そして3月から4月にかけての満月の日には、神殿の中央通路の両側に太陽と満月が正対するように設計されており、当時の建築技術の高さがうかがえます。

 

クメール王朝最盛期

11世紀初めにクメール王朝は隣国のシャム(現在のタイ)とチャンパー王国(現在のベトナム南部)を占領します。クメール王朝最盛期に、スーリヤヴァルマン2世はヒンドゥー教寺院アンコール・ワットの建設を始めました。

アンコール・ワット photo:世界遺産イェーイ!

その後1177年、クメール王朝はチャンパー王国に占領されてしまいますが、ジャヤヴァルマン7世がすぐに奪回。それ以後クメール王朝は全盛期を迎えます。ジャヤヴァルマン7世が建てた都城アンコール・トムは、チャンパー王国から受けた攻撃を教訓として、城壁で囲み城壁の外にお堀をめぐらせてあります。

ジャヤヴァルマン7世は、大乗仏教に帰依し多くの仏教寺院を建立しました。その1つがアンコール・トムの中にあるバイヨン寺院です。このようにヒンドゥー教と仏教の遺跡が混在しているのもクメール遺跡の特徴のひとつと言えます。

アンコール・トム バイヨン寺院の四面仏塔 photo:世界遺産イェーイ!

 

クメール王朝の滅亡

栄華を誇ったクメール王朝ですが、度重なる遠征や寺院建立により、ジャヤヴァルマン7世の死後急速に衰退し、1431年、クメール王朝はシャム(現在のタイ)のアユタヤ王朝に滅ぼされてしまいます。

アユタヤのワット・ヤイ・チャイモンコン photo:世界遺産イェーイ!

インドシナ半島を支配し、数々の壮大な建築物を残したクメール王朝。まだ判っていないことも多くミステリアスな部分も多いですが、美しいクメール遺跡は現在も世界中の人々を惹きつけます。東南アジアのクメール遺跡をめぐる旅に出かけてみてはいかがでしょうか?

アンコール

登録 1992年
登録基準 「人間がつくった傑作」、「文化交流」、「文明の証拠」、「建築技術」
アクセス 日本からプノンペンまで直行便で約6時間半。プノンペンからシェムリアップまで飛行機で約1時間

(text : 鈴木かの子)

 

【連載】世界遺産のプロが教える! 東南アジア イェーイな旅



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