インドネシア
カルチャー
【旅を深めるミニ講座】

ガムラン&影絵芝居のディープな魅力〜前編〜

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その土地の文化や歴史を予習して、“なるほど”な旅を楽しむ「旅を深めるミニ講座」。今回は、インドネシアの青銅打楽器・ガムランを中心とした音楽活動を始め、音楽と影絵を融合するソロユニット【TAIKUH JIKANG滞空時間】を中心に、国内外のアーティストとの共演など、多彩な活躍を見せる川村亘平斎さんが登場。音楽、影絵などの芸能を通して独特の「場」を作る彼だが、そのルーツとなるバリ島での修行体験、そこから見えたバリ島における人と伝統芸能の関係について話を伺った。

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——川村さんがガムランや影絵芝居(ワヤン・クリ)に興味を持ち始めたきっかけは何だったのですか?

「学生時代から、伝統音楽を使った仕事をしたいという思いがあったのですが、特に手で叩く楽器をやりたいと思って、大学でガムランを学び始めました。早い段階からバリに長く滞在したいという思いが募って、2003年から一年間現地で暮らし、ガムラン奏者の師匠に弟子入りして、影絵芝居で伴奏楽器を修行しました」

 

——師匠からはどんな形で演奏を学んだのですか?

「僕の師匠はほとんど喋ることがなく、『飯を食え』『太鼓を叩け』、それから『ある一定のレベルまで行ったら、あとは(ガムランは)自分のものだから』としか言われた記憶がありません。練習のときも、言葉での指示はなく、師匠がガムランを叩く姿を見て、出来るまでひたすら叩くんです。ガムランのアンサンブルに至っては、村の小中学生を教えるのは大学生、大学生以上の青年たちを教えるのは30、40代の人たち、さらに年上だと現役を引退した長老たちが教えるという具合に、世代間でガムラン演奏が継承されています。日本の囃子と似ていますよね。同じ楽器を20、30人全員で共有して使うのですが、ここでもやっぱり一つのフレーズを覚えるまで叩くという反復練習です」

 

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photo: 日本アセアンセンター

 

——地域の中心に、ガムランが存在しているんですね。

「そうですね、ガムランは音楽や楽器という言葉だけでは説明できません。楽器があるからみんな集まるし、面白いからみんな続ける。中には、本業は農家の人もいれば、絵描きの人などもいて、演奏家を生業にしている人もいます。でも、最終的に楽器が上手な人しか残れないという事はなく、どんな人でも演奏できるパートが必ず与えられて、その人がいないとガムランが成立しない風に出来ているんです。技術的な事はもちろん、人間関係なども全部、互いが理解し合った上で楽しめるものというのが面白いですよね。これはバリ独自の持ち回りの文化に通ずるもので、例えば、結婚式があれば村人全員で手伝い、新郎新婦は彼らに食事を振る舞うし、祭りに寺に納屋を建てるのを手伝った人は皆ごはんがもらえる。逆に、自分が隣の人に何か助けてもらったら、お返しに振る舞う。財産を皆で回すという価値観ですね。ただ、時代の変遷によってその文化は少しずつ薄れているのですが」

 
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——川村さんも日本で子どもたちにガムラン演奏を教えていますが、どんなスタイルで教えているのですか?

「元々、途絶えてしまった地元の町内会の夏祭りを復活させるために始めたもので、始めた頃はバリの方たちを呼んで紹介したり、3年目には子どもたちの演奏を開始して、かれこれ5年くらいになります。僕自身、本来のバリ島の芸能はパフォーマンスだけどショービジネスではないと思っているので、この活動も基本的にはショーとして告知をせずに、子どもたちが純粋に楽しく演奏できる空間があればいいと思ってやっています。ガムランを『音楽』として演奏する大人たちと違って、子どもたちは感覚で見て聞いて、叩き方を自然と身に着けるので、音の質がバリの人たちのそれに似ていて、面白いですね」

 

——それは面白いですね。こうした活動を含め、川村さんはガムランを通して、ジャンルや国の垣根を越えて様々なコラボレーションを果たしていますが、そのこだわりもバリでの経験から芽生えたものなのですか?

「幸運なことに、僕が弟子入りしていた楽団の人たちがとても前衛的な方々で、村の一人の長老しか知らない絶滅寸前の曲を復活させる活動をする一方で、海外の人とも積極的に新しい曲を作っていました。彼らは、“生きている”伝統芸能を常に最前線に置いていて、演奏する本人がガムランや音楽というものに真剣に向き合って、自分として嘘がないなら人にも受け入れられるものだという価値観を持っていたのです。外側の形にはこだわらず、大事だと思う手触りや感覚を持っていればいいと。僕の考え方の根底には、やっぱり彼らの思いがあるのですが、もちろん人それぞれ地域や音楽に対する思いは違うので、それはそれで違う視点を尊重することが、外国人の僕としては大事だとも思っています」

 

川村さんによれば、バリ島にいた頃、ガムランやワヤン・クリは「日本でのじゃんけんぐらいに根付いていた」とのこと。旅行客からすると、一見、芸能的な要素だけに目が行きがちだが、地域や時代との関係を知れば知るほど、その奥深さの虜になりそうだ。「旅を深めるミニ講座」後編では引き続き、独特の世界観がもつパワーの秘密に迫りつつ、川村さんの影絵芝居へのこだわり、さらにバリ島のおすすめ旅スタイルをお届けします。

 

<プロフィール>
川村亘平斎
(ガムラン奏者/影絵デザイン/イラストレーター)
インドネシアの青銅打楽器「ガムラン」を中心とした音楽活動をはじめ、影絵、イラストなど多方面に活躍する芸術家。2003年よりインドネシア政府奨学金を得てインドネシア・バリ島に留学。音楽と影絵を融合し、各方面から絶賛されているソロユニット【TAIKUH JIKANG滞空時間】を中心に、青葉市子、飴屋法水、荒井良二、OOIOO、cero、細野晴臣など数多くのアーティストと共演。影絵デザイナーとしても精力的に活動。シリーズ企画【ボクと影絵と音楽】、丸亀影絵通り(香川県丸亀市)、恵比寿映像祭(東京都立写真美術館)、サントリー美術館影絵ワークショップ(六本木アートナイト)、 山形ビエンナーレオープニングアクト(山形県山形市)ほか。多岐にわたる活動を通して、現代日本と伝統的な感性をつなぐツールになる新たな「芸能」のカタチを発信し続けている。

http://taikuhjikang.com/kawamurakoheisai/

 

<今後の活動予定>
・サウンド&レコーディングマガジンの公開録音(AFRA×滞空時間×KEN ISHII)
日時:2月15日(日)音源配信(ototoy)
・川村亘平斎 影絵と音楽 ソロライブ@西荻窪 【音や金時】
日時:2月18日(水)19:00開場/20:00開演
料金:2,300円 ※詳細はHPにて。
・3月中旬より、川村亘平斎×田中馨(ショピン・トクマルシューゴバンド)の影絵DVDのクラウドファンディングを開始予定。

 

(text:Izumi Kakeya)

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